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東京高等裁判所 昭和37年(ラ)617号 決定

第五五八号事件抗告人・第六一七号事件相手方 神田商事株式会社

第六一七号事件相手方 杉本信蔵

第六一七号事件抗告人・第五五八号事件相手方 小川哲三

参加申立人 大島誠治 外二名

主文

原決定中主文第一、二項を取消す。

横浜地方裁判所昭和三六年(ケ)第一八号不動産任意競売事件の競売手続開始決定中別紙第二目録記載の建物に関する部分に対する昭和三七年(ラ)第五五八号事件相手方小川哲三の異議申立を却下する。

昭和三七年(ラ)第六一七号事件抗告人小川哲三の抗告を棄却する。

参加申立人三名の申立を却下する。

本件手続費用中参加申立に関する分は参加申立人らの負担とし、その余の部分は、原審及び抗告審を通じ、すべて小川哲三の負担とする。

理由

昭和三七年(ラ)第五五八号事件抗告人神田商事株式会社(以下神田商事という)は、「原決定主文第一、二項及び第四項を取消す。横浜地方裁判所昭和三六年(ケ)第一八号不動産任意競売事件の競売手続開始決定中別紙第二目録〈省略〉記載の建物に関する部分に対する相手方小川哲三の異議申立を却下する。手続費用は全部相手方小川哲三の負担とする。」との裁判を求め、昭和三七年(ラ)第六一七号事件抗告人小川哲三は、「原決定主文第三項及び第四項を取消す。前同競売手続開始決定中別紙第一目録〈省略〉記載の土地に関する部分を取消す。本件競売申立中右土地に関する部分を却下する。手続費用は全部相手方神田商事株式会社及び同杉本信蔵の負担とする。」との裁判を求めた。

抗告人神田商事の抗告理由の要旨は、

「(1) 相手方小川哲三は、抗告人神田商事が杉本信蔵から抵当権の設定を受けたのは別紙第三目録〈省略〉記載の建物であるところ、右杉本がその後これについて改築工事を施行した結果、従前の建物と別個の建物(その構造坪数はほぼ別紙第二目録記載のとおり)となつた旨主張するけれども、右の工事はそのようなものでなく単なる増築改修にすぎないもので、その増築部分はすべて従前の建物に附合して一体となつたもので建物の同一性は失われず、前記抵当権は当然に右増築部分をも含め建物全部に及ぶものである。(2) 仮りにそうでないとしても、本件抵当権の設定当時既に右建物の工事は開始されており、増築後の建物に抵当権を設定する旨の合意が成立したものであるから、いずれにしても本件抵当権の効力は現存の建物全部に及ぶものといわなければならない。(3) なお右建物の増築工事を請負つた相手方小川哲三は増築後の建物を注文者たる杉本信蔵に引渡しているのであり、相手方小川が右建物の所有権を有するとの主張はあたらない。」というのであり、

抗告人小川哲三の抗告理由は、

「別紙第一目録記載の土地は登記簿上杉本信蔵の所有名義とされているけれども、実際は抗告人小川の所有に属する。しかるに相手方神田商事は右杉本からこれについて抵当権の設定を受けたとして本件競売申立をしたもので、その競売は許さるべきでないから本件抗告に及んだ。」というのである。

大島誠治・杉本和隆および樋田フジヱの三名は、小川哲三から別紙第二目録記載の建物の所有権、ほかに土地の権利その他これに付属する権利等一切を譲り受けたから、みぎ三名の申立によるものとして、小川哲三の申立どおりの裁判を求める旨申し立てた。

なお、昭和三七年(ラ)第五五八号事件相手方兼同年(ラ)第六一七号事件抗告人小川哲三(以下単に小川哲三と略記する。)の原審昭和三六年(ケ)第一八号不動産任意競売事件の競売手続開始決定に対する異議申立の理由は、原決定の理由の冒頭に摘示されているとおりであるから、その記載をここに引用する。

以下当裁判所の判断を示す。

本件各抗告の対象である原決定は、小川哲三において、本件任意競売の目的物件である別紙第一・二目録記載の土地および建物について所有権を有する旨をもつて、抵当権者であるとする神田商事の申立による競売手続開始決定に対して異議を申し立てたところ、異議理由のうち土地に関するものを否定し、建物に関するものを肯定したものである。しかし、競売法による競売手続開始決定に対し異議を申し立てることのできるものは同法第二七条第三項各号の規定に列挙された利害関係人に限ると解される。しかるに、まず本件競売の目的物件である土地については、甲第一号証の二(土地登記簿謄本)によれば、杉本信蔵のために所有権取得の登記がなされてあつて、同人の所有に属するものと認められ、小川哲三が同人からこれを買い受け取得したことを認めるに足る証拠がない。またみぎ甲第一号証の二によれば、小川哲三のために昭和三六年八月三〇日付でみぎ土地につきなされた賃借権設定の登記は、神田商事のなした競売申立についての昭和三六年二月一〇日付の登記におくれていることが明らかであるから、これをもつて競売法第二七条第三項第三号の規定にいう「登記簿ニ登記シタル不動産上ノ権利」であるとはいえず、その他小川哲三がみぎ土地について競売法前示法条各号の規定による利害関係人に当ることを認めるに足る資料がない。つぎに同じく建物については、小川哲三は、その所有権を取得したと主張するが、甲第一二号証の一(通知書)および同号証の二(土地および建物売渡証書)によれば、同人は、建物その他が自己の権利に属するものとして、建物および「外に土地の権利その他これらに付属する権利等一切」を大島誠治ら三名に昭和三八年八月三日に売り渡す旨の契約をして、その旨を神田商事らに通知していることが認められるから、甲第一号証の一によれば、建物について不動産保存の先取特権を登記していることが明らかであるけれども、既に自ら建物の競売に関し何らの利害関係を有する関係にないことを表明したものとなさざるを得ない。ゆえに、小川哲三がさきに本件競売手続開始決定に対してなした異議の申立は、すべて適法でないことに帰する。

ところで大島誠治ら三名は、建物の所有権を小川哲三から承継取得した旨をもつて、小川哲三の申立と同旨の裁判を求めるという。その趣旨は必ずしも明らかでないが、右は本件競売手続の目的たる前記建物の所有権を小川から承継取得したことを理由として民事訴訟法第七三条、第七一条の規定に基き本件抗告手続に参加の申立をしたものと解される。しかし、競売開始決定に対する異議は強制競売もしくは任意競売における手続の是正を求める申立であり、かような事件においては、民事訴訟法第七三条、第七一条の予定しているような当該手続によつて確定さるべき権利は存しないと解されるから、右異議事件につき前記各規定を準用することは法の予定しないところと考えられる。よつて右各申立は不適法としてこれを却下すべきものと認める。

以上述べたとおりであるから、抗告人神田商事の抗告を容れ、小川哲三の異議申立により前記競売手続開始決定中別紙第二目録記載の建物の部分を取消し神田商事の右建物に対する競売の申立を却下した原決定は失当であるからこれを取消し抗告人小川哲三の抗告を棄却し、参加申立人らの申立はいずれもこれを却下することとし、民事訴訟法第九六条、第八九条の各規定に則り手続費用の負担を定め、主文のとおり決定する。

(裁判官 岸上康夫 中西彦二郎 斎藤次郎)

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